女医のときどきブルーな日々

ときどき下を向いてしまう30代女医のつぶやき。「コーチング」「着物」「育児」などなど。

【読書録:山本文緒】一人・闘病・再婚

こんにちは。

コーチングプレイス認定コーチのあおです。

 

 

今日は2021年に急逝された山本文緒さんの本を紹介します。

山本さんはいくつもの小説を書かれた作家さんですが、今回紹介したいのはエッセイ。30代から40代にかけて、生きることや働くことに対する不安や期待、喜びや落胆が淡々と散りばめられた作品です。

 

■著者紹介:山本文緒

1962年神奈川県生れ。OL生活を経て作家デビュー。99年『恋愛中毒』で吉川英治文学新人賞、2001年『プラナリア』で直木賞を受賞。20年刊行の『自転しながら公転する』で21年に島清恋愛文学賞中央公論文芸賞を受賞した。著書に『あなたには帰る家がある』『眠れるラプンツェル』『絶対泣かない』『群青の夜の羽毛布』『そして私は一人になった』『落花流水』『ファースト・プライオリティー』『再婚生活』『アカペラ』『なぎさ』『ばにらさま』『残されたつぶやき』など多数。2021年10月13日、膵臓がんのため58歳で逝去。

——https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000731.000047877.html

 

ビジネス本や自己啓発本に飽き、哲学書や人文系の本を手にするも「なにか違うな」と思っていた頃。ふと「エッセイが読みたい」と出会ったのが山本さんの『そして私は一人になった』でした。

「六月七日、一人で暮らすようになってからは、私は私の食べたいものしか作らなくなった。」夫と別れ、はじめて一人暮らしをはじめた著者が味わう解放感と不安。心の揺れをありのままに綴った日記文学。(https://amzn.to/3WI9ekQ

 

32歳で離婚して独身。生まれて初めて一人暮らしを始めた山本さんが綴る率直な日々。

一人でいることの気楽さや自由。自立できていることの自信。20代から30代になって、少し大人の価値観を持てるようになった一方で、一人きりでいることの不安がところどころに滲みます。

 

私もほぼ毎日楽しく過ごしているけれども、時々ふっと「こんなことしていて、いったい何になるんだろう。もう死にたいっス」と思うことがある。

私はひとまわり年下の、根の暗い女の子に自分を重ねている。定期的にそういう虚無感に襲われるのは同じなのだ。

いつもそれをだましだまし生きている。

——『そして私は一人になった』山本文緒

 

 

淡々とした文章が心地よくて、もっと読みたいと感じていた時。

後書きで再婚をされたこと、うつ病を患ったこと、その日々を綴ったエッセイがあることを知り、引き寄せられるように読み始めました。

「ほんの少しの起きている時間で、パン一枚だけ食べて、書かなくちゃならない原稿だけ死ぬ思いで書いて、猫の世話だけは何とかやって、あとはとにかく臥せっているしかありませんでした」(https://amzn.to/3WOZ6GQ

 

読み始めてすぐに「この作者さんは良心的な方だ」と思いました。

冒頭で、この本はあくまで彼女の体験談であり、うつ病治療のひとつの過程が描かれているだけで「うつ病の治し方」が書かれているわけではない、と断りを入れていたから。

闘病記録というのは、同じ病気になった方やその家族が「どうやったら治るのか」「もっといい治療法はないのか」と手を伸ばしがちなものです。けれどそれに対して、あくまで「個人の体験」として線をひいている。読者の期待に沿わないかもしれないけれど、最初にちゃんと断りを入れているというのは、とても誠実です。

 

病気というのはどんな病気でも、平凡な日常から離れる、という意味で旅に似ていると思うのです。いつ戻って来れるか予定の立つ旅もありますし、いつ帰宅できるのかわからない途方に暮れるような旅もあります。そのまま帰ってこられないという旅というものも残念ながらありますが、どんな人でもいつか必ず永遠に戻らない旅立ちをするのです。

——『再婚日記 私のうつ闘病日記』山本文緒

 

病状がかなり悪い状態のころの記録も書かれているのですが、そんな中でも書き綴っていたのは作家さんだから為せたことだったのでしょう。

日々の息苦しさ(生き苦しさ)を感じる方にとって、自身の言葉にできない辛さが表現されているかもしれません。

 

山本さん本人の記録だけでなく、そばで闘病を支えていた夫さんに対する描写もあります。闘病中、ジェットコースターのように感情が変化する山本さんのそばで暮らし、理不尽に巻き込まれ、一時は一緒に生活できなくなった二人が、それでも一緒に回復への道を探っていく姿。

うつ病でない方にとっても「病める時も健やかなる時も」一緒にいるというのはどういうことなのだろうと、自分の結婚生活を振り返る機会になるかもしれません。

 

 

離婚後の一人暮らし、そして再婚生活。

その間を埋めるように書かれたのが『結婚願望』です。

結婚は、能力ではなくて人格が選ばれることだ。結婚をしたいほど好かれているなんて、嬉しくないわけがない。不確実だとわかっていても、人は人を好きになると「結婚したい」と願うものだ――。(https://amzn.to/3kPg4b0

 

紹介文に引用されているこの一文が、すべてを物語っています。

結婚したい。一人にもなりたい。結婚しなくてもいいけれど、なんだか結婚しないといけない気がする。結婚がすべてではないとわかっているのになぜ人は結婚に惹きつけられるのだろうか。

 

10代の頃から結婚したくてたまらなかった作者。20代で燃え上がるような恋をして、この人しかいないと思える人と結婚。でも30代で離婚して一人。

生きていくことと結婚生活。

たぶん20代から40代(もしかしたらそれ以上の方も)の女性は一度は葛藤するようなことが、本の中ではいくつもの文章で積み重ねられていきます。結婚している人も、結婚していない人も、どこかで「わかる」と共感できるところがあるはず。

 

意思がちょっとぐらついたくらいでは、結婚は壊れない。それを壊そうと思ったら、ものすごく面倒なことになる覚悟をもたなければ結婚はなかなか崩壊しない。

しっかりしたものが好きな人には、結婚は向いている。

でも、落としても落としても割れない頑丈なコップに、少しの苛々と恐怖のようなものを感じるのは私だけだろうか。

——『結婚願望』

 

 

これまで一度も読んだことのない作家さんでした。

けれど30歳を過ぎた今だからこそ出会えた作品たちだと思います。

 

今回、山本さんの本を紹介するにあたり、はじめて2021年に亡くなっていたことを知りました。できることなら、これから50代を経て、60代と、70代になった山本さんの作品を読みたかったです。

 

最後の作品となったのは、『無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』

これからゆっくりと読み進めて行きたいと思います。

 

 

 

 

 

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